開発の経緯/特性/作用機序

開発の経緯

ヘルニコア椎間板注用1.25単位(有効成分 コンドリアーゼ)は、世界に先駆けて日本で初めて承認された腰椎椎間板ヘルニア治療剤です。

腰椎椎間板ヘルニアは、脊柱管内に突出あるいは脱出した腰椎椎間板組織(ヘルニア)が馬尾・神経根を圧迫して強い下肢痛やしびれなどの神経症状を引き起こす疾患です。また、20~ 40歳代の勤労年代に好発するため、社会的経済的損失は大きな問題であり早期に症状を改善することが治療上重要とされています。
現在の腰椎椎間板ヘルニアの治療は、保存療法と手術療法の二つに大別され、保存療法が治療の原則とされています。
過去に欧米では、タンパク分解酵素であるキモパパインを椎間板の髄核内に直接注入し、椎間板内圧を減少させる椎間板内酵素注入療法(化学的髄核融解術)が行われていました。
椎間板内酵素注入療法(化学的髄核融解術)は、保存療法と手術療法の中間に位置する治療法として医療ニーズがありましたが、キモパパインが販売中止されたことにより治療の選択肢から外れることとなりました。

コンドリアーゼは、グラム陰性桿菌の一種であるProteus vulgaris が産生する酵素で、1960年代に生化学工業株式会社が、糖質科学分野の研究用試薬として販売してきました。
タンパク質を分解せずに椎間板髄核中の保水成分であるグリコサミノグリカンを特異的に分解する特性を有することから、椎間板周囲の神経組織等への重大な傷害が発生する可能性が低いと推測されました。生化学工業株式会社は新しい酵素注入療法(化学的髄核融解術)の薬剤としてコンドリアーゼの医薬品開発を開始しました。

国内第Ⅲ相試験では、主要評価項目である最悪時下肢痛の変化量(VAS)、副次評価項目であるODIの変化量、ヘルニア体積の変化量に有意な改善が認められ、有効性、忍容性が確認されました。
本剤は、腰椎椎間板ヘルニア治療に対して、新たな治療選択肢となる医薬品です。
これまでに国内外で臨床試験が6試験実施され(承認申請時)、2018年3月、「保存療法で十分な改善が得られない後縦靱帯下脱出型の腰椎椎間板ヘルニア」を効能・効果として承認されました。

  1. ※本剤の効能・効果は「保存療法で十分な改善が得られない後縦靱帯下脱出型の腰椎椎間板ヘルニア」です。

特性

  • ■ 世界に先駆けて日本で初めて承認されたコンドリアーゼを有効成分とする腰椎椎間板ヘルニアa 治療剤です。
  • ■ 腰椎椎間板ヘルニアa の症状の原因である高位の椎間板内に単回投与する椎間板内酵素注入療法の薬剤です。
  • ■ 椎間板髄核中におけるグリコサミノグリカンを特異的に分解することにより、椎間板内圧を低下させる新しい作用機序を有します。
    (社内資料:基質特異性試験(in vitro)/正常ヒツジを用いた薬理試験)
  • ■ 国内第Ⅲ相試験において、プラセボ群と比較し、最悪時下肢痛(VASb)の変化量(検証試験)、ODIc の変化量に有意な改善が認められ、ヘルニア体積の有意な減少が認められました。
    (承認時評価資料:腰椎椎間板ヘルニア患者を対象とした国内第Ⅲ相試験)
  • ■ 国内第Ⅱ / Ⅲ相試験及び第Ⅲ相試験において、本剤が投与された229 例中122例(53.3%)に副作用(臨床検査値異常を含む)が認められました。主な副作用は、腰痛51例(22.3%)、下肢痛11例(4.8%)、発疹等6例(2.6%)、発熱4例(1.7%)、頭痛3例(1.3%)でした。主な臨床検査値異常は、Modic分類の椎体輝度変化d 54 例(23.6%)、椎間板高の30%以上の低下e 33 例(14.4%)、好中球数減少6例(2.6%)、5°以上の椎間後方開大e 5例(2.2%)でした。(承認時)なお、本剤は異種タンパクであり、重大な副作用としてショック、アナフィラキシーがあらわれるおそれがあるので、投与終了後も観察を十分に行い、異常が認められた場合は、直ちに適切な処置を行うこと。(頻度不明f
  • a:本剤の効能・効果は「保存療法で十分な改善が得られない後縦靱帯下脱出型の腰椎椎間板ヘルニア」です。
  • b:VAS(Visual Analogue Scale、視覚的アナログスケール):痛みの強さを評価する方法
  • c:ODI(Oswestry Disability Index、オズウェズトリー腰痛障害質問票):腰痛による日常生活への機能障害の程度を評価する
    方法1), 2)
  • d:MR画像異常
  • e:X線画像異常
  • f:本剤で認められていない副作用については頻度不明とした。
  • 1)Fairbank JC, Couper J, Davies JB, O’Brien JP. The Oswestry Low Back Pain Disability Questionnaire. Physiotherapy. 1980; 66:271-273.
  • 2)Fairbank JC, Pynsent PB. The Oswestry Disability Index. Spine 2000; 25:2940-2952.

作用機序

ヘルニコア(コンドリアーゼ)は、椎間板内に直接注入することにより、髄核の主な成分であるプロテオグリカンを構成するグリコサミノグリカン(主にコンドロイチン硫酸)を特異的に分解しプロテオグリカンの保水能を低下させます。
その結果、椎間板内圧が低下しヘルニアによる神経根圧迫が軽減され、臨床症状(下肢痛・腰痛など)が改善すると考えられています。

  • ※グリコサミノグリカン(GAG):コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ケラタン硫酸
    プロテオグリカン:コアプロテインにグリコサミノグリカン鎖が共有結合した複合体
ヘルニコア投与前投与後
監修:浜松医科大学 整形外科学 教授 松山 幸弘 先生